スパイス・香辛料と料理

香辛料は、さまざまな経緯を経て調理に使われはじめ、世界中に広まりました。そして現在では、各国の気候風土や食生活に合った使われ方をして、それぞれの国の代表的な料理に使われています。その中で、何種類かの各国を代表する香辛料をブレンドしたスパイスが作られるようになり、手軽に使えるようになりました。その代表的なものがカレー粉です。 また、香辛料には大きく分けて、「香りづけ」、「辛みづけ」、「色づけ」の3つの働きがあります。ここでは、それら3つの働きごとに各国の代表的な香辛料を使った料理を紹介するとともに、香辛料のそれぞれの働きや使い方も紹介します。参考にして料理に役立ててください。

香辛料の3つの働き

①香りづけ

素材との相性によって使いわけると、料理がおいしくなり、素材特有の臭いを消す効果もある香辛料があります。香りの成分は、高温多湿にさらすと消えやすいので、日があたるところを避け、ふたをしっかり閉めて保存するようにしましょう。
代表的なものに、カルダモン、クローブ、シナモン、ナツメグ、フェンネル、クミン、オールスパイスなどがあります。

②辛味づけ

料理のアクセントとして、好みに合わせて使います。辛味成分によって、さわやかな辛味、焼けるような辛味、舌がしびれるような辛味、清涼感を与える辛味があります。このような香辛料は高温多湿を嫌うので、ふたをしっかり閉めて保存しましょう。
代表的なものに、コショウ、唐辛子、マスタード、わさび、ホースラディッシュ、サンショウ、ショウガなどがあります。

③色付け

赤・黄・緑などの色が、料理に彩りを添えて食欲を促進させます。植物系の色は光に弱いので、光を避けて保存しましょう。
代表的なものに、ターメリック、サフラン、パプリカ、パセリ、などがあります。

各国を代表する料理

世界各国には、その国を代表する香辛料を使った料理があるものです。ここでは、1つの香辛料で特徴をだす料理と数種類をブレンドした混合スパイスを使った料理を紹介します。いずれも市販されている香辛料です。

1つの香辛料を使った代表的な料理

イタリア

イタリアといえばパスタ料理とピザ。その料理に欠かせないのがオレガノで、温暖な風土に適した香辛料です。イタリア料理にはよくトマトやチーズが使われ、オレガノはそれらの素材とよく合います。
このような料理のほかに、新鮮な生の葉が手に入れられるヨーロッパでは、そのままサラダに使ったり、みじん切りにしたりしてドレッシングに入れることもあります。日本の大葉のような使われ方がよく似ています。このほかオレガノには、臭いを消す働きがあるので、タイムやセージなどといっしょに、トマトソースやウスターソースなどのソース類にも使います。また、鶏肉やマトン料理によく使われ、さわやかな香りとかすかな苦みが好まれている香辛料です。

フランス

南フランスの代表的なブイヤベース、スペイン料理のパエリアに欠かせないものがサフランです。料理を黄金色に染め、香りもプラスする魔法の香辛料です。この黄金色はロイヤルカラーとして尊重され、ヨーロッパでは心を華やかにすると語り継がれている人気の高い香辛料です。
サフランはやわらかな香りの香辛料で、魚介類やお米、鶏肉などの比較的淡白な素材とよくマッチします。
香辛料は、サフランのほかにホールのタイムやローレル、パウダーのホワイトペッパー、おろしたガーリックが使われています。
同じような色をだすものでターメリックがあります。これは、もちろんカレー粉の材料ですが、ピラフやピクルス、マリネなどにもよく使われます。

日本

日本の代表的な香辛料と言えば、純国産のわさびです。そのわさびが欠かせない料理が、日本ならではのそばです。また、かぶら蒸しは京料理を代表するもの。わさびはしょうゆと相性がよく、そばサラダはわさびを混ぜた和風ドレッシングをかけて食べ、かぶら蒸しは、だし汁で作るわさびあんをかけて食べます。
また、わさびは日本料理を代表する刺身、寿司にもなくてはならないもの。冷たくてきれいな水が流れる場所にしか育たないわさびは、ほかの香辛料と比べて産地が限られます。そのためか、現在市販されているわさびは、西洋わさび(ホースラディッシュ)を主原料にしているものが多くあります。生のわさびの辛味は、上端部(葉や茎がついているところ)が強く、下になるほど弱まります。使うときは、上端部からおろすとよいでしょう。

独特の混合スパイスを使った料理

中国

中国でよく使われる香辛料をブレンドした五香粉を使った料理です。名前の通り、5種類の香辛料をブレンドします。地方によって少し異なりますが、共通して使われるものはクロ―ブ、シナモン、陳皮(ミカンの皮を干したもの)です。残りの2種類のうち1種類はフェンネルかスターアニス。もう1種類は辛味のもので花椒がよく使われます。
五香粉は、日常の料理を中国風にアレンジしたい時に効果的です。豚肉の角煮や魚の煮付けなど、ショウガやネギといっしょにしょうゆ味で煮込むときに五香粉を加えると味がガラリと変わります。長く煮込んだりする場合は、香りが弱くなるので、下味に加えて料理するとよいでしょう。
そのほかにも、焼き豚や鳥の照り焼き、魚のあんかけ料理、炒め物など、さまざまな料理に使えます。

インド

インド料理のおふくろの味ともいえるガラムマサラを使ったカレー。ほかに使う香辛料はおろしショウガ、パウダーのターメリックや赤唐辛子、コリアンダー、クミンなどです。
インドでは、ガラムマサラは各家庭に代々伝わる独自の処方でブレンドされ、だいたい3~10種類の香辛料が使われます。その内容はとくに決まっていませんが、一般的には肉・魚用にナツメグ、ガーリック、フェヌグリーク、クローブなどが使われます。野菜用にコリアンダー、クミン、キャラウェイ、フェンネルなどの芳香性のあるもの。そして辛味に赤唐辛子、ショウガなどがブレンドされます。
家庭でカレー料理を作るときには、市販のものを仕上げに加えると風味が一段と増し、おいしくいただけます。

調理が楽になる混合スパイス

家庭で手軽に使える混合スパイスとして、インド料理に使う香辛料の代名詞のようなカレー粉、日本独特の七味唐辛子、メキシコ料理に欠かせないチリーパウダー、伝統的なフランス料理を支えるカトルエピスを紹介します。

イギリス人が開発したカレー粉

カレー粉は世界で最も有名な混合スパイスでしょう。18世紀の末にイギリス人が、現在のようなパウダー状にブレンドしたものを作ったのが、そもそものはじまりでした。
そして、現在ではカレー粉をベースにした料理は世界各国でアレンジされて人気メニューになっています。なかでも、日本はカレー粉の消費大国です。カレーうどん、カツカレー、カレーパンなどは、家庭でも町のレストランでも、日本独自の定番メニューになっています。家庭でカレーライスを作るときに使うインスタントカレー用のルーは、日本で作った独自のものです。
インドでは、それぞれの家庭で10種類前後の香辛料をブレンドします。あまり多くの種類を使わないので、インドタイプのカレー粉は全体的に荒々しく、少し薬臭さがありますが、パンチのある香りが楽しめます。
一方、ヨーロッパタイプはおだやかな香味がしますが、芳香性はインドタイプより少し劣ります。この違いは、ブレンドする香辛料の違いのほかに、香辛料の焙煎の方法とブレンド後に熟成処理を行なうかどうかで生じます。
どちらのタイプも決まったブレンド方法はありません。香りの香辛料、辛味の香辛料、着色の香辛料を、好みに合わせてブレンドします。

ジャパニーズ・ブレンドの七味唐辛子

祭りばやしのリズムに合わせて、7つの香辛料をブレンドしていく縁日の七味唐辛子売り。江戸時代、日本橋薬研堀の芥子屋徳右衛門が生唐辛子、焼き唐辛子、けしの実、サンショウ、ゴマ、あさの実などを混ぜ合わせて売り出したのがはじまりだといいます。
ブレンドの方法は「二辛五香」といい、辛味の香辛料2種類と香りの香辛料5種類を組み合わせます。一般的には唐辛子、サンショウ、あさの実、陳皮、ゴマ、けしの実に、青のりもしくはシソを加えます。
市販の七味唐辛子は、大きく関東タイプと関西タイプに分けられます。関東タイプは唐辛子の辛さと香りを好み、関西タイプは、サンショウの辛さと香りを好む傾向があるようです。ですから、関東タイプの色は赤みが強く、濃い色合い。関西タイプは、ゴマも黒ではなく白を使うので淡い色合いになります。
この七味唐辛子に合う料理は、漬物、麺類、焼き鳥、魚・肉料理など幅広く、日本の食卓にはなくてはならない混合スパイスといえるでしょう。

安心な辛さのチリパウダー

チリパウダーは、メキシコ料理には欠くことができない香辛料です。「チリ」という言葉は辛いという意味。メキシコ産のレッドチリペッパーにつけられた名前です。
カレーパウダーと同じく、決まった処方はなく、インドと同じように地方や、家庭によってさまざまなチリパウダーが作られています。
本場のメキシコには、レッドペッパーの種類が豊富に揃っています。チリアンチョという大きなメキシカンチリやカリフォルニアチリがよく知られ、なかには緑色をした辛くない種類もあります。作り方はチリを石臼でひき、その中に好みの香辛料をひきながら合わせ、家庭の味をだします。
市販のチリパウダーには、アメリカタイプとメキシコタイプがあります。どちらも、爽快な刺激と甘い香りが特徴。外観ほど辛くなく、料理に少々使いすぎても失敗はありません。辛味はレッドペッパーの配合によりますが、一般的にはアメリカタイプより、メキシコタイプのほうが辛めです。
チリパウダーを使った代表的な料理はタコス、チリソース煮、メキシコ風雑炊のソパ・デ・アロースなど。最近では、イタリアやアメリカの肉料理にも使われています。

フランスの伝統料理を調味するカトルエピス

カトルエピスのカトルはフランス語で数字の4、エピスは香辛料を意味します。つまり4種類の香辛料がブレンドされている混合スパイスですが、その香辛料はどれもヨーロッパ諸国では栽培されていないものばかり。そのことからも、かつては高価なものであったことが想像されます。
ブレンドされる4種類の香辛料は、辛味のための香辛料ではレッドペッパー、ペッパー(ブラックペッパーもしくはホワイトペッパー)、ショウガのうちの1種類(まれに2種類)を使用し、香りの香辛料ではシナモン、クローブ、ナツメグの3種類を混合します。そのブレンド方法は、まず、これらの香辛料を粉末にし、調合する時は、辛味の香辛料だけ少なめにし、ほかの香辛料はほぼ同量の割合で合わせればよいでしょう。
カトルエピスは、オールスパイス、クローブ、シナモン、ナツメグなどと同じ料理に使えます。とくに、パテやテリーヌなどの臓物料理に効果的です。ハムやソーセージを作るときには、素材に練り込んで使うとよいでしょう。
料理の風味の源は、それぞれの文化が育んできた香辛料の働きだといえます。香辛料の大半は香りをもち、辛くないものが多いのです。しかし、使いすぎると風味を損なってしまうことがあるので気をつけてください。はじめて使う香辛料は、少しづつ加減しながら試してみましょう。

(引用元:ミニ百科 香辛料)